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オアシス一般向


オアシス一般向
450
装丁:カラー / A6 / オンデマンド (100 P)
重量:76g(風袋0g)
発行日:2008年11月09日
これまでに発表した4作品の加筆修正版と書下ろし3作品の計7作品を収録。少し不思議が入った短編小説集です。


「白い雨」

 白い雨が街中を消し去るように降り続く。この惑星に移住してから透明な雨なんて見たことが無い。いつも月曜日の朝九時に乳白色のそれは降り始めて、十二時前には降り止む。

「……そういえば、地球生まれだったっけ?」
「……そう。……こっちに来るまで一度も離れた事が無かったよ。」
 修正液を零したような街が少しづつ形を取り戻し始めると、バス停のベンチに座っていた友人のヤチが話しかけてくる。
 青白い顔でつまらなさそうに歩道に打ち付ける雨粒を見つめると、溜め息交じりに話しだす。彼とは大学で同じゼミだったのを縁に、よく一緒に出かけている。いつも腰から下は長い巻きスカートのような服を着て、ジャージの上着を着ている。首には黒い毛糸のマフラーがぐるぐるに巻きつけられて肩から斜めにかけているカバンにいつもノートパソコンを入れている。

「そうかぁ。僕は父の仕事の関係でいろんな惑星を渡り歩いていたから、同じところにずっといるっていうのに憧れたよ。……ほら、幼馴染とかって、いい響きだよね」
「……そうかな。……でも僕には幼馴染は居ないよ」
「へぇ? ずっと地球にいたのに?」
「…地球は広いんだよ? ……国の数だって凄いあるし、人間だって沢山いる。そりゃ、あの天変地異でだいぶ大地も人も減ってしまったけれどね」
 小降りになってきたのを手のひらで確認すると彼が立ち上がると、慌てて僕も立ち上がりリュックを肩に引っ掛ける。
「……そうか、そうだね。僕はコロニーレベルの惑星しかまわっていないからね。ここも大学とその関係者しか居ないから、大体の顔は見たことあるし」
「……でも沢山友達が出来るじゃないか。それは羨ましいと思うけど?」
「うん。……それは、ね」
 白い雨を降らせていた雲が晴れて青空が覗き出すと、通りも光を取り戻して色とりどりのタイルで装飾された歩道が現れる。
 並んで歩き出すと、何処からともなく通行人も増えてくる。これからだと丁度三限目の授業に間に合う時間だ。

「……トキオは『七夕』って知ってるかい?」
 思わず驚いて足を止めるとヤチが振り返る。そんな言葉を聴いたのは何時以来だろう。地球上でも日本人ぐらいしか知らないんじゃないかと思う民話だし、宇宙を飛び回っているヤチ―そもそもヤチは地球人ですらない―が知っているなんて驚きだ。
 振り返りながら彼が寂しげな顔で微笑む。

「……織姫星(ヴェガ)と牽牛星(アルタイル)は十五光年離れているんだ」
「え?」
「でもね、そんな時間と距離なんて関係ないんだよ」
 僕はヤチの言葉の意味を図りかねると、立ち止まったまま背の高い彼の顔を見つめる。遠くの何かを懐かしむように宙を見つめていた彼が、歩くように促してくると再び歩き出す。

「……彼女はとても彼を愛していたから、その想いが形よりも勝ってしまって次第に姿を保っていることが出来なくなったんだ」
 ヤチの口から、まるで零れるように言葉が落ちていく。


(『白い雨』前半部分)
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